林 哲朗
国立病院機構東京医療センター
総合内科/臨床疫学研究室
Hinohara Fellowship 2017
2017年8月~2018年8月
プロフィール:
略歴
- 2006年:慶應義塾大学卒
- 2006-2008年:国立病院機構東京医療センター 初期研修
- 2008-2013年:国立病院機構東京医療センター 総合内科後期研修
- 2013-2017年:国立病院機構東京医療センター総合内科/臨床疫学研究室
- 東京慈恵会医科大学大学院臨床疫学研究部
- 2017-2018年:Beth Israel Deaconess Medical Center(日野原フェロー)
- ハーバード公衆衛生大学院
- 2018-:現職
専門や関心領域
一般内科/総合診療、メンタルヘルス、臨床疫学、生物統計学
留学した期間
2017年7月~2018年8月
留学を志望した動機や経緯
学生の頃より、「人生で一度は海外留学をしてみたい」と考えていました。医師としての海外留学は、基礎研究での留学もしくは臨床留学を行う方が多いと思いますが、市中病院の総合内科医として臨床・教育を行いつつ臨床研究を中心に行なっていた私には、いずれの方法も“留学を通じて本当に学びたいこと”からは少し離れた選択肢でした。そんな中、Program DirectorのWee先生が来日された際の講演に出席させていただき、本プログラムにめぐり合うことができました。米国トップクラスの研修病院であるBeth Israel Deaconess Medical Center (BIDMC)の内科プログラムを見学させていただくとともに、臨床研究の基礎を学びつつ臨床研究の指導を受けることができる日野原フェローシップは、まさに私の理想の留学でしたので迷わず応募させていただきました。
留学までの準備や関連情報
公衆衛生大学院の受験も同時期に行ったため、英語試験対策(TOEFL, GRE)、Personal statement、CVには1年程度の準備期間をとりました。また、私は日本のPopulationに関心があったため、渡米前に研究計画を立てデータをまとめた上でプログラムを開始しました。
留学時の経験や活動
臨床研究に関して本プログラムを通じて得られた最も貴重な経験は、米国の総合内科医/プライマリ・ケア医として臨床研究を中心に活躍している人々に出会えたことです。BIDMCのGeneral Medicine and Primary care部門には臨床研究を中心に行なっているメンバーだけでも数十名が在籍しており、定期的にリサーチカンファレンスを行なっています。カンファレンスでは若手研究者が中心に発表を行い、その後参加者全員でのディスカッションが行われます。臨床研究の第一線で活躍されている方が多いため(中にはNEJMのEditorの方もいらっしゃいました)、議論は毎回非常にエキサイティングでコメントの一つ一つが勉強になりました。その他にもHarvard wide research conferenceという、Brigham and Women’s Hospital等のハーバード関連病院に勤務するリサーチフェローが合同で行うカンファレンスもあり、これから臨床研究を専門にしてゆこうとしているメンバーとともに切磋琢磨できたのは大きな刺激になりました。自分のプロジェクトに関しては、Dr. Weeと週1回のミーティングを行うことに加え、月に1回はBIDMCのメンター、フェローと合同で行うミーティングもあり、プロジェクトの進捗状況をお互いに発表する機会があります。優秀かつ優しいメンター・同僚に恵まれ、研究以外にも米国の医療制度や研修システム、医学教育などたくさんのディスカッションを行うことができました。私は最終的には論文投稿までをフェローシップ期間内に行うことができましたが、1年間はかなり限られた期間ですので、渡米前からある程度準備してゆくとより実りのあるフェローシップになると考えます。
臨床教育に関しては、BIDMCで行われる複数のカンファレンスに定期的に出席させていただきました。BIDMCではMortality and Morbidity Conference, Morning report, Journal club, General Medicine and Primary care部門のConference, BIDMC全体のConferenceなど多様で完成度の高いカンファレンスが毎週行われています。特にMortality and Morbidity Conferenceは、チーフレジデントを中心に症例を担当した研修医、専門医の医師など10名程度が関わって1つのケースを紹介し、学べるポイントを多面的に評価した上で共有する非常に充実したカンファレンスでした。チーフレジデントを担当されている方に話を伺ったところ、発表の準備に約1ヶ月の時間を使っているとのことで、大変な熱意を持って運営に当たられていました。その他にも、病棟診療やアテンディングラウンド、インターンやレジデント向けのレクチャーや外来研修も見させていただき、内科研修の実際を幅広く知ることができました。プログラムとして特に印象に残ったのは、外来診療研修により重点を置いている、という点です。内科プログラムでは年間2-4ヶ月、プライマリケアコースでは年間約6ヶ月の期間が外来研修に当てられており、指導医による系統レクチャーや1症例ずつの丁寧なフィードバックなど、充実した教育が行われていました。また、BIDMC内科プログラムではレジデント向けに3週間の臨床研究コースが設けられており、私も参加させていただきました。この期間レジデント達は診療を一切行わず、臨床研究の講義を毎日受講し、個別に研究計画書を作成するといった非常に実践的なコースでした。中にはレジデンシーの期間内に研究を完成させ論文投稿まで行う方もいるようで、プログラムとして臨床研究教育にも力を入れていることが分かりました。
今回の日野原フェローシップを通じてたくさんの素晴らしい経験をさせていただきました。中でも米国の質の高い内科研修プログラムを知ることができたこと、そして総合内科医・プライマリケア医として臨床研究を発信してゆくことの重要性を実感できたことは、非常に大きな学びでした。この場をお借りして、派遣にあたりご支援くださいました日本の選考委員の先生方、そして現地でご指導いただきましたDr. Wee, Dr. Taylorに心より感謝申し上げます。今後はこの経験を生かし、日本のプライマリ・ケア教育の発展に貢献してゆきたいと考えています。
米国の総合診療とプライマリ・ケア
Beth Israel Deaconess Medical Center(以下BIDMC)で米国の総合診療&プライマリ・ケアに触れる機会がありました。
次の3つの項目に分けて紹介します。
1. 米国におけるプライマリ・ケア
2. 総合診療部門が行う病棟診療
3. 内科研修医教育(レジデンシープログラム)
米国の総合診療とプライマリ・ケア